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法人の暗号資産、期末の時価評価と仕訳|法定は移動平均法(総平均法は届出制)

結論:法人の暗号資産の期末評価は「移動平均法」が原則。総平均法は届出をした法人だけ
法人が保有する暗号資産の1単位当たり帳簿価額は、移動平均法または総平均法のどちらかで計算します。しかし、税理士事務所のコラムやSNSでも「総平均法が基本」という誤解が広がっています。国税庁の公式FAQが明記する法定評価方法は移動平均法で、総平均法を使いたい法人は所轄税務署長への届出が必要です(個人の所得税とは正反対のルールです)。さらに、活発な市場が存在する暗号資産を自己の計算で保有する法人は、事業年度末に時価評価を行い、含み益・含み損を益金・損金に算入する必要があります。
この記事のポイント
- 法人の法定評価方法は移動平均法。総平均法にするには税務署への届出が必要(個人は逆に総平均法が法定)。
- 届出をせず総平均法で計算していると、税務調査で移動平均法への再計算を求められるリスクがある。
- 「活発な市場が存在する暗号資産」を自己の計算で保有する法人は、期末に時価評価し評価損益を計上、翌期首に洗替処理する。
- 自己発行かつ譲渡制限付きの暗号資産は時価評価の対象外。第三者発行でも一定の譲渡制限付き暗号資産は届出で原価法を選べる場合がある(2024年度改正)。
そもそも期末時価評価とは何か——対象になる法人・暗号資産
法人税法第61条により、法人が事業年度終了時に保有する暗号資産のうち「活発な市場が存在する暗号資産」(市場暗号資産)は、時価法により評価した金額をその時点の評価額としなければなりません。自己の計算において保有する市場暗号資産については、評価額と帳簿価額との差額(評価損益)を、その事業年度の益金の額または損金の額に算入します。この評価損益は翌事業年度に洗替処理(戻し入れ)されます。
「活発な市場が存在する暗号資産」に該当するかどうかは、国税庁の質疑応答事例(法人課税課情報第2号)で次の3要件をすべて満たすかどうかで判定されます。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| ① 売買価格等の公表 | 継続的に売買価格・交換比率が公表され、それが実際の取引価格の決定に重要な影響を与えている |
| ② 十分な数量・頻度 | ①の公表を裏付けるだけの数量・頻度で取引が行われている |
| ③ 独立した価格形成 | 公表がその法人以外の者によるか、取引が主にその法人の自己計算取引でない |
主要取引所に上場するビットコインやイーサリアムはほぼ該当します。DEX(分散型取引所)で取引される暗号資産も、自動マーケットメイカーが継続的に交換比率を明らかにし、他の取引所の相場と著しく乖離しない限り対象になり得ます。逆に、流動性が極端に薄い銘柄や、自社の取引がほぼ価格形成の主因になっている暗号資産は対象外になり得ます。
期末仕訳の考え方(移動平均法の計算例)
期末時価評価の仕訳は「評価額と帳簿価額の差額」を暗号資産の帳簿価額に加減し、相手科目を評価損益(益金・損金)に計上する形です。以下は仕組みを理解するための説明用の仮設例です(実在の数値ではありません)。
前提(すべて自己の計算で保有する市場暗号資産・BTC)
- 4月10日:0.5BTCを400万円で取得
- 9月15日:0.5BTCを600万円で取得
- 期末(3月31日)保有数量:1BTC、期末公表時価:1BTC=1,200万円
移動平均法では、取得の都度「その時点で保有する暗号資産の帳簿価額合計 ÷ 保有数量」で単価を計算し直し、期末に最も近い算出時点の単価を期末の帳簿価額の計算に使います。
- 4/10取得直後:400万円 ÷ 0.5BTC=800万円/BTC
- 9/15取得直後:(400万円+600万円)÷ 1BTC=1,000万円/BTC(期末に最も近い算出時点)
期末の帳簿価額=1,000万円/BTC × 1BTC=1,000万円。期末の時価評価額は1,200万円なので、評価益は200万円です。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 暗号資産 | 2,000,000円 | 暗号資産評価益 | 2,000,000円 |
翌事業年度の期首には、この評価損益を戻し入れる洗替処理を行います。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 暗号資産評価損 | 2,000,000円 | 暗号資産 | 2,000,000円 |
戻し入れ後、帳簿価額は評価前の1,000万円に戻り、新しい事業年度もこの帳簿価額を起点に移動平均法の計算を続けます。評価益に対応する税額も、個人と法人では扱いが異なります。個人であれば雑所得として給与所得など他の所得と合算し、最大で所得税・住民税合わせて約55%の累進税率が適用される総合課税の対象となりますが、法人の場合はその事業年度の他の所得と合算した通常の法人税率で計算されます。この税率構造の違いも、法人と個人のどちらで暗号資産を保有すべきかを考える際の判断材料です(詳しい税率比較は仮想通貨は法人と個人どっちが得?にまとめています)。
移動平均法と総平均法——計算方法の違いと「届出」の実務
移動平均法は、暗号資産を取得するたびに「その時点で保有する暗号資産の帳簿価額合計 ÷ その時点の保有数量」で平均単価を計算し直す方法です。期末に最も近い算出時点の単価を、期末時点の1単位当たり帳簿価額として使います。取得の都度、単価が更新されるのが特徴です。
総平均法は、期首に保有していた暗号資産の評価額と、期中に取得した暗号資産の取得価額の合計額を、期首保有数量と期中取得数量の合計で割り、期を通じて一つの平均単価を出す方法です。年1回の計算で済むため事務負担は軽くなりますが、期中の値動きが平均に反映されるタイミングは移動平均法より遅れます。
ここが実務でよく誤解されるポイントです。
法定評価方法は「移動平均法」——総平均法にするには届出が必要
国税庁の公式FAQ「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて」(令和7年12月最終改訂)は、暗号資産の譲渡原価の項目で「1単位当たりの帳簿価額の計算は、移動平均法又は総平均法により算出することとされています(法定評価方法は、移動平均法です。総平均法を採用する場合には、所轄税務署長に届出等をしてください。)」と明記しています。個人の所得税は逆に総平均法が法定(届出をしない場合、個人は総平均法、法人は移動平均法が適用される)とされており、この非対称性が「総平均法が基本」という誤解の原因になっています。届出書を提出しなければ、法人には自動的に移動平均法が適用されます。
届出の実務ポイントは次のとおりです。
- 提出先・時期:総平均法を選ぶ場合、暗号資産を取得した日の属する事業年度の確定申告書の提出期限までに、納税地の所轄税務署長に届出書等を提出します。
- 暗号資産の種類等ごとに選定:評価方法は暗号資産の種類ごとに選べます。すべての銘柄を同じ方法に揃える必要はありません。
- 変更するとき:一度選んだ評価方法を変更する場合は、変更する事業年度開始の日の前日までに変更承認申請書を提出する必要があります。期中に自由に切り替えることはできません。
- 無届のリスク:届出をしないまま総平均法で計算・申告してしまうと、税務調査で移動平均法への再計算を求められ、過去の申告に誤りが生じる可能性があります。暗号資産取引の多い法人ほど影響が大きくなるため、事業年度の早い段階で顧問税理士と評価方法・届出の要否を確定させておくことが実務上の防御線になります。
時価評価の対象から外れるケース(2023・2024年度改正)
期末の含み益への課税は資金繰りの負担になりやすいため、対象範囲は近年の税制改正で見直されています。
- 自己発行・譲渡制限付き暗号資産(2023年度改正):自社が発行し、発行時から継続して保有し、かつ他者に移転できない技術的措置や信託などの譲渡制限が発行時から継続してかけられている暗号資産は、期末の時価評価の対象から除外されます。取得価額は発行に要した費用の額とされます。
- 第三者発行の特定譲渡制限付暗号資産(2024年度改正、2024年4月1日以後に終了する事業年度から適用):他社が発行した暗号資産でも、技術的措置による譲渡制限があり、その制限が付されている旨を暗号資産交換業者等に通知しているなど一定の要件を満たす「特定譲渡制限付暗号資産」は、届出により時価法・原価法のいずれかを選べるようになりました。原価法を選べば、ロックアップ中の含み益に毎期課税されることを避けられます。ただし届出期限(原則、その暗号資産を取得した日の属する事業年度の確定申告書提出期限まで)や技術的な要件は細かいため、自社が保有する暗号資産がこの区分に当てはまるかは税理士に個別確認するのが安全です。
よくある質問
Q. 何もしなければ、うちの会社は総平均法で計算していいのですか? A. いいえ。届出をしなければ法定評価方法である移動平均法が適用されます。総平均法を使いたい場合は、暗号資産を取得した日の属する事業年度の確定申告書提出期限までに届出が必要です。
Q. 移動平均法と総平均法、どちらが有利ですか? A. どちらが有利かは値動きと取引頻度次第で一概には言えません。移動平均法は取得の都度単価が更新されるため期中の値動きを反映しやすく、総平均法は年1回の計算で事務負担が軽いという特徴があります。損得より先に、まず自社の取引実態に合う方法を税理士と選び、期限内に必要な届出をすることが優先です。
Q. 期末に含み益があるのに現金化していません。それでも課税されますか? A. 活発な市場が存在する暗号資産を自己の計算で保有している場合、原則として未実現の含み益にも期末時価評価で課税されます(現金化の有無は関係ありません)。ただし、自己発行かつ譲渡制限付きの暗号資産や、要件を満たし届出をした特定譲渡制限付暗号資産は、対象外または原価法選択の余地があります。
Q. 評価方法は暗号資産の銘柄ごとに変えられますか? A. はい。1単位当たりの帳簿価額の算出方法は暗号資産の種類等ごとに選定することとされています。ビットコインは移動平均法、別の銘柄は総平均法、という選び方も制度上は可能です(それぞれ届出が必要です)。
まとめ
法人の暗号資産の期末実務は、①活発な市場が存在するものを自己の計算で保有していれば期末に時価評価し評価損益を計上する、②1単位当たり帳簿価額の算出方法は法定では移動平均法で、総平均法にするには届出が必要、③自己発行・譲渡制限付きの一部の暗号資産は時価評価の対象外や原価法選択の余地がある、という3点が骨格です。特に②の「法定=移動平均法」は税理士事務所のコラムでも誤解されがちなので、決算前に必ず自社がどちらの方法で計算しているか、届出の有無を確認しましょう。個人と法人どちらで暗号資産を持つべきかの比較はこちらの記事、暗号資産税制の全体像は暗号資産の税金 完全ガイドにまとめています。
参考・出典
- 国税庁「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」(令和7年12月最終改訂)項目3-1-2「暗号資産の譲渡原価」(法定評価方法の明記): https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/virtual_currency_faq_03.pdf
- 国税庁 法人課税課情報 第2号「法人が保有する暗号資産に係る期末時価評価の取扱いについて(情報)」(令和5年1月20日): https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/hojin/230120/pdf/01.pdf
- 国税庁「令和6年度 法人税関係法令の改正の概要|暗号資産の評価方法の見直し等」: https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hojin/kaisei_gaiyo2024/pdf/L.pdf
投資にあたっての注意
本記事は情報提供を目的としたものであり、投資助言ではありません。暗号資産は価格変動やハッキング等のリスクがあります。投資判断はご自身の責任で、余裕資金の範囲で行ってください。
Sources
FAQ
- 何もしなければ、うちの会社は総平均法で計算していいのですか?
- いいえ。届出をしなければ法定評価方法である移動平均法が適用されます。総平均法を使いたい場合は、暗号資産を取得した日の属する事業年度の確定申告書提出期限までに届出が必要です。
- 移動平均法と総平均法、どちらが有利ですか?
- どちらが有利かは値動きと取引頻度次第で一概には言えません。移動平均法は取得の都度単価が更新され期中の値動きを反映しやすく、総平均法は年1回の計算で事務負担が軽いという特徴があります。損得より先に、自社の取引実態に合う方法を税理士と選び、期限内に必要な届出をすることが優先です。
- 期末に含み益があるのに現金化していません。それでも課税されますか?
- 活発な市場が存在する暗号資産を自己の計算で保有している場合、原則として未実現の含み益にも期末時価評価で課税されます。ただし、自己発行かつ譲渡制限付きの暗号資産や、要件を満たし届出をした特定譲渡制限付暗号資産は、対象外または原価法選択の余地があります。
- 評価方法は暗号資産の銘柄ごとに変えられますか?
- はい。1単位当たりの帳簿価額の算出方法は暗号資産の種類等ごとに選定することとされています。ビットコインは移動平均法、別の銘柄は総平均法、という選び方も制度上は可能です(それぞれ届出が必要です)。
本記事は情報提供のみを目的とし、投資・金融・取引の助言ではありません。価格は参考値で古い場合があります。投資判断はご自身の責任で。